kaze no tanbun 夕暮れの草の冠

僕が出てきたのものこの墓地だった。親は僕と同じところに埋まっていたのだ。親は手首だけがもう出てきていた。ずいぶん元気のいい親だ。これなら掘るのもそう難しくないだろう。

まず美しい装丁に目を奪われる。布張りの表紙に金の箔押し(というのだろうか?)でなんか世界名作文学集みたいだ。
kaze no tanbunは西崎憲さんプロデュースの「短文」集である。短編ではないので、必ずしも小説というわけではないらしい。実際読んでみるとジャンルは様々、共通点は短いひとかたまりの文章があるといったていである。といってもつまらないとか劣っているということは全然なく、むしろこの短さが自由を生んでいるようにも思われる。不思議なアンソロジーだ。

本会からは大木芙沙子が「親を掘る」を寄稿している。
タイトルの通り親を掘る話なのだが、この世界での人間はどんどん若返っていく定めにあり、親は子供に掘り返され、若くなった子供はいずれ親の中に還っていくという不思議な設定になっている。とはいえ難しいことは考えなくてもよい。いったいどういう世界なのかと読み終わったあとも思いを馳せる余地があり、大変おもしろかった。また大木芙沙子氏らしいユーモアのある軽い読み味も魅力。
ほかにも「ペリカン」(蜂本みさ)、「セントラルパークの思い出」(藤野可織)、「たうぽ」(松永美穂)など新人からベテランまでバラエティ豊かな全18編が収められている。

本当は全編のレビューを書きたかったのだが、解釈に悩む作品もあり、下手に通り一遍読んで感想を書くと解釈の余地を狭めてしまいそうだ。その日の気分で適当にページを開き、読む。何度も読む。そして解釈の揺れや余韻を楽しむ。そういう本なのではないだろうか。